川で 4

サエは特に透明色をキレイに出すという理由で、硝子を染め付ける部門で働いていた。
O氏の兄は基礎12色見本という役職に就くほど正確な色の職人タイプだった。人から出る色はその日の体調や気分で揺らいでしまうものだが、彼は同じ色を同じように出す人間で、工場全体の色見本を1人で作っていた。
そして、O氏はメタルカラーを担当していた。そもそも、メタルカラーを出せる人間は100人に1人の割合でしか存在しない。
だから、様々な部門で引っ張りだことなり、彼だけが工場の敷地内を移動する専用の電気カートを持っていた。

工場に勤め出して5年目の時に、O師は新色開発室に来るように言われ電気カートに乗って中央の新色塔に向かった。そして、白い塔の上部に丸い虹の輪が出来ているのを見た。
彼は、頭の中に響くオンオンと子犬が鳴く様な音を聞きながら、建物の中に入り地下の開発室のドアを開けた。
そこには、兄とプリズムさんが、今しがた恋に落ちましたという顔で見つめ合っていた。
O氏は2人の手を取って握らせ、自分もその上に手を重ねた。
その時に出来たのが、かの子である。
生れ出た かの子の回りは陶器の桃色のような七色の丸い波紋が次々にわき上がっていた。
その時工場にいた人たちは、この新色を見て誰もが「あの3人は本当に素晴らしい色職人だ」と喜んだ。

(つづく)