「6個目のぼっち」

「6個目のぼっち」
壁の方を向いて立っていた。
壁から握りこぶし1個分くらいのところに。
何故だか、気をつけの姿勢を崩してはいけないようだ。
目玉を右の方にギリギリによせる。
白い壁がボーと見える。
目玉を左にギリギリによせる。
白い壁がボーと見える。
目玉を上にギリギリによせる。
帽子のツバと前髪の先が見える。
目玉を下にギリギリによせる。
ホッペタと鼻が邪魔だと思う。
このままだと、壁と自分のほかを確認しようがない。
思い切って、壁に頭突きをしてみた。
ゴンッと音を立てて、壁が凹んだ。
それと同時に背後から、笑い声が聞こえてきた。
振り返ると、小さい男の人が立っていて、「オデコから血が出てるよ」とやわらかいガーゼを当ててくれた。
白い壁の凹みにも赤い点がついた。
足下にはグレーの丸い帽子が転がっていた。