《パノラマとパラレルワールド-1》

 《パノラマとパラレルワールド-1》
 昨日のことがまるで思い出せない・・・あれ?・・・そうじゃない、・・・、昔のことがさっぱり思い出せない・・・。あらま、これは記憶喪失だわ。
まさみは、困った状況のはずなのに、なんだか晴れ晴れとした気持ちになっていた。そんな自分がとてもおかしくて笑い出した。しばらく笑うと、自分以外の人はこの家の中にいないのかしらと思った。もし、いるなら少しはこの状況が分かるはずである。タバコの火をテーブルの上にあった銀色の灰皿の中にもみ消した。
ジュッ、ザザザーン、ザザザーン、ザザザーン・・・、寄せては返す波の音。ん?ドコから?白い壁から、壁に掛かってる海の絵から。絵の中の海が寄せて返している。「えっ?窓?じゃない? 絵なのに、波が動いている。絵って、そういうものだったかしら?」 これは変だぞと、まさみは思った。ん、もしかして夢の中にいるのかしら。にしては、覚醒してるなぁ。
 「起きたのね。」と女の人の声がした。驚いて声のほうを見ると、ドアの所に見覚えのある人物が立っていた。「あれ?S子。なんで、あんたがここにいるの?」「なんでって、あたしの家だもん。ん、まだ、寝ぼけてる?」「起きてるけど、記憶ないんだ。」「なに?新しい遊び?」「違うって、マジで。」「まぁ、とりあえず、朝ご飯食べよ。」「本当なんだってば。」とまさみが真顔で言うと、「んー、とりあえず、あたしのことは覚えてるのね。」とニヤニヤしながらS子が言った。「本当だ。なんでだろ?」本当になんでだろう・・・、まさみは真顔のまま何も答えられないでいた。「プッ、アハハハハ、ナイス、まさみっ。」とS子は大笑いをしながら、まさみに向かってウィンクをしてベリー・グットのサインを出した。そして、笑いすぎて涙を流しながら、直ぐに下の食堂に降りてくるようにとゼスチャーをした。そして、笑いながら階段を降りていった。
 「違う・・・、S子だけど、S子じゃない・・・。」


 
  
  変電所の辺りの違う場面を描きました。