《イントロ 其の1》

ki9te502006-05-18

 『やまひこ』をもう少し。「ヤマビコ」と通常は発音する。漢字は幽谷響、山彦、呼子とも書く。こちらが叫んだことを、そのまま返してくる。人が「わっ」と言えば、この妖怪は「わっ、わっ、」と言いながら山や谷を飛び歩く。天邪鬼や覚という奴にも似てる。天邪鬼は天逆毎の子供とされる。子鬼の姿で、逆のことをして人を不愉快にするのが好きだそう。地域によっては創造神として伝わっている所もある。覚は山の中に棲んでいて、相手の思っていることを何でも言い当てる。山の中に一人でいる人間をからかう。
山ヤマにいる彦(男・男子)ヒコ。
音で分解すると、
ヤ「野・谷・夜・八・弥・矢・家・・・・」、
マ「間・真・魔・摩・痲・磨・馬・・・」、
ヒ「日・火・碑・妃・非・灯・比・否・秘・・・・・」、 
コ「子・個・粉・湖・鼓・孤・壺・古・・・・・・」。

 


《イントロ 其の1》
 川縁に降りたS子は、何度も何度も振り向いた。見えるのは、山と岩と川、鉄橋と車と大勢のハイキング客と釣人である。聞こえるのは、風や水の音と鳥の声、人の話し声や車の音。ゴールデン・ウィーク真っ只中の山ん中。怪しいのは、一人きりで何度も振り向くS子だけである。1週間前にも、S子は羽田と一緒に同じ場所に来ていた。平日だったから、二人以外の人影はなかったし、二人の間にも会話は殆どない。 けども、騒がしい。
 
「ごめん、起きてた?今日は天気が良いから、白浜の方までドライブしない?30分後に車で迎えに行くわ。」
と羽田から一方的な電話があった。「・・・うん・・・」 と答えて受話器を置いた。時計は5時。「・・・ゴゴゴゴジ・・・って・・・5時って・・・」 ・・・羽田は店長・・・だから・・・ということは・・・バイト休み・・・って・・・ドライブ・・・バイト代ない・・・まさみさん・・・、二人で行けよ、行きたくねぇ。目が覚めてしまったので、着替えて牛乳を飲んだ。ピンポーンというチャイムの音にドアを開けると羽田だけだ。「まさみさんは?」と聞くと「俺と2人じゃ、イヤ?」と笑顔の羽田。これは、朝5時半の笑顔じゃねぇーよ、あー、絶対面倒なコトがあるんやわ・・・。