《空いた場所》

《空いた場所》
「夜なわけやないで。空いた場所や、意外に早く着いたわ」と羽田は車を止めた。S子は、とり合えず車から出たら分かるか・・・とシートベルトを外しドアを開けた。地面がない・・・「浮いてる?浮いてるやんけ、この車・・・」「せやから、空いたトコなんやて、例えばな、紙を二枚重ねて皺皺に丸めても、ちょっとズレルやん、ズレたら空いたトコできるやん。そういうトコやから、降りんねやったら、パタパタってせな危ないで」「え?パタパタってしたら飛べるんか?」と真顔で羽田に訊ねているS子を見て、まさみが吹きだした。「パタパタってしなくても、大丈夫よ。ここは、すべての物質と同じ重さの場所なんだから」 羽田がニヤニヤしてる。アカン、からかわれてる、ムカツク。S子は握りこぶしを作り、羽田の横っ面を思いっきり殴った。「アガっ、せやから、グーで殴んなや、しゃれやんけ〜」「あらら、ここのS子は割と乱暴なのね」「そやで、めっちゃ凶暴やで」「うっさいわ。ところで、まさみさん、同じ重さってなんですの?」「ん? ほら、死体に重石代わりに、水のポリタンクを縛ってさ、池に沈めたつもりだった恥ずかしい犯罪者がいたじゃない。あれと同じ原理よ」「あー、なんか前にニュースで見たわ。コメントしてた科学者が失笑してたやつや。比重がどうのこうの言うとったわ」
・・・すべてと同じ比重?