《山の中-5》

《山の中-5》
 
「・・・何がどうなってんねんや・・・」と言ったのは羽田の方だった。
S子:「それは、こっちの台詞やんけ、何や分かって無いんか?」
羽田:「えーと、いや、S子はS子やねんけどS子やないっちゅうか、俺は一人何やけど、S子はいっぱいおって、まさみはもっといっぱいおるねんか・・・、なんて言うたらええんやろ・・・」
まさみ:「ほら、ちゃんと説明しないと、S子が混乱するでしょうが」
S子:「・・・っ!?」
さっき気を失ってる間に乗ったのか? いや、今の今までそんな気配は無かった。S子は首が回転するんじゃないかという勢いで振り向いた。もう5月だというのに、水色のダウンジャケットを着込んだまさみが後部座席で腕組みをして座っている。
S子:「・・・、まさみさん!? ・・・おまえは誰やっ?」
まさみ:「まさみです。始めまして、久しぶり、さっきはどうも」
アカン、まだ羽田が犬やって方が受け入れられる・・・。いや、たぶん、羽田が犬やって受け入れた時点で、全部受け入れなアカンねやわ。
S子:「ハジメマシテ、ヒサシブリ、サッキハドウモ」
まさみ:「OK。説明するわ。ちょっと待ってね。えーと、ココはドコかな・・・、っていうか、ココ、暑いね」
まさみは、ダウンを脱ぬいで、手のひらを上に向けて窓から出した。雨が降ってるか確かめてる様なポーズだが、ときどき、空中を握り締めて何かをつかんでいた。S子はその様子をジッと見ていた。羽田はラジオを切った。