川で 10

O氏の兄は眠りの中で手紙を書く。
『石きり五段。トンネル西。弟戻る。三色の溢れを止めぬように。帰りに牛乳と歯ブラシと、何か甘い物を買って来て下さい。』
直ぐに返事がコトンとポストに届く。
《帰りは少し遅くなりそう。歯ブラシは台所の引き出しにストックあります。》
それに返事を書く。
『ストックの歯ブラシは毛が長く伸び過ぎて口に入りませんでした。買い物は自分で行きます。出来るだけ早く、かの子と弟も連れて帰ってきてください。一緒にカボチャの煮物と柿を食べましょう。』
コトン。
《はい。コトンコトン。》
O氏の兄はオデコをかきながら、窓の外を見る。向かいの山の上で、山吹色の旗が風に揺れている。
「あ、僕もあそこに行かなくっちゃ。」
(つづく)