「12個目のぼっち」

「12個目のぼっち」
塔の螺旋階段をぐるぐるのぼり始めて、だんだんと何日経ったのかよく分からなくなった。
地上の景色は、もう色の面と線に見えた。
曇りの日が続いて、朝なのか昼なのかもよく分からない。
「私は何日こうしてのぼってるのか?どうすれば分かるだろう?」
と考えながら、階段をのぼっていた。
その日は、夜になると雲が切れて月がよく見えた。
「あ、休憩場に立ち寄った回数で分かるか・・・。」
でも、印象的な所や人がいた部屋のことは思いだせるが、ビジネスホテルの部屋みたいに、特に感想のない部屋も時々あったので、それが何回なのかよく分からなかった。
「うーん、3ヶ月くらいは経ったと思うんだけどな・・・。」
と踊り場で毛布に包まり、月をぼんやりと眺めていた。
「ん、満月だ。・・・あ、分かるや!!・・・えーと、1日目が新月で、4回目の満月だから、えーと、29,53×3+14=102,59日だから、103日目じゃねーの?」
私はうれしくなって、眠れなくなり、月明かりの中、階段をのぼることにした。
だんだん、夜が明けだしたら、どんどん寒くなってきて、とたんに眠気が襲ってきた。
階段の途中では眠れないから、寒さと眠気と戦いながらのぼっていたら、休憩所のドアがあった。
「あ、ゆっくり眠れる」と思って、ドアを開けたら、指の長い女の人が立っていた。
「あら、夜に階段を上るのは危ないわよ。」と言って、私を招き入れた。
部屋の中は暖かくて、女の人はちょうどいい温度のお風呂を用意してくれた。
お風呂から上がると、生姜湯を飲ませてくれた。私は、女の人に丁寧にお礼を言った。
身体がポカポカして、ベッドにもぐったら直ぐに寝入ることができたけど、しばらくしたら、夢の中で、あの背の高い男が「103って、3日で割り切れないね。102か105日じゃないの?」と意地悪く笑った。
私は夢の中でも眠かったので、「・・・そうかもね、まぁ、だいたいで良いよ。」と答えながら眠ってしまった。
 
 正確なコチコチという音で、目を覚ました。
音のする方を見たら、隣の部屋にピアノがあって、その上に置いてあるメトロノームの音だった。
「あぁ、あの女の人はピアノを弾くんだ。」
起き上がって、隣の部屋に行ったら、ピアノの前に指の長い男の人が座っていた。
「おはようございます。よく眠れましたか? 食事、机の上にあります。」とこちらを振り返らずにピアノを弾き始めた。
ピアノの演奏を聴きながら、食事を静かに食べていたら、女の人が側にきて、見たことのない音符でかかれた楽譜のカードをくれた。
そして、女の人は男の人の隣に座って、一緒にピアノを弾き始めた。
男の人は楽譜を見ながら演奏していて、女の人は好きなように自由に演奏しているようだった。